2018年10月13日土曜日

私の院試体験(6)

・8月中旬
院試勉強を進めていたとはいっても、ずっと勉強していた訳でもない。まず第一に、スマートフォン用ゲーム「きららファンタジア」は気分転換という名目で毎日プレイしていた。また、祖父と一緒に風呂に行き、それから一緒に食事をとった日もあった。祖父は私を風呂好きにした張本人であり、今でもよく一緒に風呂に行く。祖母によれば、二年前に肺炎にかかってタバコを一切断ってからというもの、そのお金を風呂に回すようになり、最近はますます風呂に行く頻度が上がっているらしい。祖父と風呂に行って、のぼせたりビールを飲んだりしたため、その日はあまり勉強ができなかった。
他に、結婚式を控えた従姉妹が夫(私にとっての義理の従兄弟)と一緒に帰ってきて、家族で宴会をした日もあった。高校の同期達が帰省してきて、(私は早めに帰ったが)姫路でちょっと遊んだ日もあった。
また、私は数学者や京大教員が面接で服装を気にするとは思えなかったので、私服で面接に行くつもりだったのだが、これは母の反対にあった。面接は連戦だから、スーツで行くとなるとカッターシャツが不足する。私は、数学者相手なら高校のとき着ていたカッターで十分だろうと言ったが、母は新品を買うべきだと主張した。このため、わざわざ姫路まで行って百貨店でカッターシャツを買うことになってしまった。
そんなこんなで、過去問5年分の演習に加え、直近1年分の過去問とTOEFL ITPの参考書を使って何も見ず模試形式で練習をするつもりだったのだが、結局過去問4年分くらいを解いた上で専門科目の模試を行っただけになってしまった。案の定といえば案の定だが、位相空間論もTOEFLも全くやっていないまま、私は8/17を迎えた。

・8月17日(1)
8/17、実家を出発し東京に向かう日である。
8月初頭に実家に帰省するときもだが、一連の東京↔︎姫路間の移動には新幹線を用いた。新幹線は金こそかかるが実に快適だ。新幹線でも東京↔︎姫路には3時間程度かかるのだが、この3時間という長さがちょうど良い。乗り物酔いのリスクや、揺れによる眼精疲労の増加を考えると、新幹線は作業や読書に向いた環境ではない。だから新幹線の中では特に何も捗らない。しかし、私が何もしなくても新幹線は私を東京まで運んでくれるのだ。これは、私が何もしないための格好のエクスキューズである。私は何もする必要がなく、ただそこに乗っていさえすれば良い。3時間の間、乗り換えも不要だ。つまり、新幹線は私の存在を全肯定してくれる機械なのである。日々タスクに追われている私は、こうした無為を渇望している。新幹線に乗っている間何もしないのは、自宅のベッドの上で何もしないのとはわけが違う。そこに背徳感は一切ない。私は、私に至高の無為(*1)を与えてくれる新幹線が大好きだ。
長々と新幹線について語ってしまった。しかし、この日の私には、そうした無為を楽しむ余裕などなかった。2日後に迫る北大の院試を前にして、私は不安だった。そう、不安だったのだ。なにせ、そのとき私は北大の受験票を持っていなかったのだから。(続く)

(*1)それも、ほどほどの頻度で、ほどほどの長さの。

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