2022年4月20日水曜日

熱力学における温度目盛りについて

加藤先生がこのようなツイートをされていた。

温度の目盛りの定義の話をしないまま、カルノーサイクルまで到達したとき、そこで絶対温度を定義したあと、理想気体についてなにか言えるのかな?

という問題である。ここに考えたことを書き留めておこう。

まず温度の目盛りがないという状況について整理する。この場合でも、熱的に接触させ熱平衡状態を作ることで「温度が同じ」は定義できる。また、「温度を上げる断熱操作の存在と、その不可逆性」から「温度の大小関係」は定まっている。

温度の目盛りの定義がない場合でも、理想気体について次の2点の実験事実が言える。
1. 温度Tを一定にした場合、圧力Pは体積Vに反比例する。
2. 圧力Pを一定にした場合、温度Tを上げると膨張する。
そこで、温度Tのみに依存する量θ=θ(T)を導入し、PV=Nθと書くことにしよう。θはTの増加関数である。

だが、上記の2点だけでは仮定が足りない。そこで、理想気体の内部エネルギーは体積に依存せず、温度と物質量のみに依存することも仮定する。よって、ある関数f(T)を用いて、U=Nf(T)とかける。このとき、等温準静操作において理想気体の内部エネルギーは変化しない。ゆえに、熱力学第一法則から、理想気体が等温準静過程(T, V_1)→(T, V_2)で受け取る熱Qは
Q = Nθ(T) log(V_2/V_1)
とかける。
一方、理想気体の断熱準静操作を考えれば、熱力学第一法則とU=Nf(T)及びPV=Nθより
f'(T)dT=-(1/V)θ(T)dV
である。この式においてθ(T)を移項して両辺積分することで、ポアソンの法則に相当するものが従う:
理想気体の断熱準静操作に関して、ある関数g(T)があって、g(T)V = const.

この結果をカルノーサイクルに適用しよう。理想気体を用いてカルノーサイクルを作り、高温熱浴の温度をT_H、低温熱浴の温度をT_Lとする。Q = Nθ(T) log(V_2/V_1)とg(T)V = constより、高温側の最大吸熱量Q_Hと低温側の最大吸熱量Q_Lは定数c_1, c_2を用いて次のようにかける。
Q_H = Nθ(T_H) log (c_2/c_1)
Q_L = Nθ(T_L) log (c_2/c_1)
その比はQ_H/Q_L = θ(T_H)/θ(T_L) となる。

カルノーの定理と絶対温度の定義より、最大吸熱量の比はQ_H/Q_L = T_H/T_Lである。従ってθ(T_H)/θ(T_L) = T_H/T_Lとなり、θ(T)/T = const. が得られる。すなわちθがTに比例することが結論づけられた。

ところで、θがTに比例することを仮定すると、理想気体の内部エネルギーは体積に依存しないことが熱力学的状態方程式より従う(熱力学的状態方程式の右辺で、θ(T)/T=constとPV=Nθを代入すればよい)。つまり、「理想気体の内部エネルギーは体積に依存しない」と「θはTに比例する」は同値な命題といえる。
このことを踏まえると、私の目には、理想気体を登場させずにカルノーの定理まで議論して、絶対温度を定義した後に、PV/T=const.によって理想気体を定義する(*1)やり方の方がすっきりしているように感じられる。このようにすれば、カルノーの定理を議論したことで新たに「理想気体の内部エネルギーは体積に依存しない」が言えるようになる。私は、これが最初の加藤先生のツイートに対する答えだろうと思っている。

(*1)この定数は、結果的には、理想気体の種類に依存しない定数であるボルツマン定数k_Bと粒子数Nの積となる。だが、これは粒子の存在を仮定しない熱力学の範囲から外れる内容であり、検証には別途ミクロな実験が必要となる。