3. テント写像からロジスティック写像へ
次に、Tのカオス性からL_4のカオス性を導くことを目指す。 (X,\mathcal{O}_X),(Y,\mathcal{O}_Y)を位相空間とする。
定義6 [位相同型]
X,Yにある全単射f: X \to Yが存在し、fとfの逆写像がともに連続であるとき、X,Yは位相同型であるといい、fを同相写像という。定義7 [位相共役]
連続写像f: X \to X, g: Y \to Yに対し、共役方程式 \begin{equation} h \circ f = g \circ h \end{equation} を満たす同相写像h: X \to Yが存在するとき、fとgは位相共役であるという。定理2 [位相共役によるカオス性の保存]
X,Yは有限集合でないとする。また、連続写像f: X \to X及びg: Y \to Yがh: X \to Yによって位相共役であるとする。このとき、fがX上でカオスならば、gもY上でカオスである。(i) 任意のU \in \mathcal{O}_Jをとる。hの連続性より、h^{-1} (U) \in \mathcal{O}_Iである。従って、fの周期点の稠密性より、このUに対して、あるfの周期点pが存在してp \in h^{-1}(U)とできる。その周期をnとする。このとき、g^n(h(p))=h(f^n(p))=h(p)であるから、h(p) \in Uはgの周期nの周期点である。よって、任意のU \in \mathcal{O}_Jに対しUに属する周期点が存在し、gの周期点の稠密性が示された。
(ii) 任意のU,V \in \mathcal{O}_Jをとる。hの連続性より、h^{-1}(U), h^{-1}(V)\in \mathcal{O}_Iである。fの位相推移性より、このU,Vに対して、f^n (x) \in h^{-1} (V)となるx \in h^{-1} (U)とn \in \mathbb{Z}_{>0}が存在する。f^n (x) \in h^{-1} (V)よりg^n (h(x))=h(f^n(x)) \in Vであり、h(x) \in Uであるからg^n(U) \cap V \neq \emptysetである。これよりgの位相推移性が示された。[証明終]
命題2 [L_4のカオス]
力学系(I,\mathcal{O},L_4)はカオスである。4. Lyapunov指数
カオスの特徴の一つとして、初期条件がわずかに異なる二つの点が力学系の空間の上で指数関数的に離れていく性質を挙げた。この性質の度合いを調べる指標として、Lyapunov指数がある。これはx_{n+1}=f(x_n)に対して \begin{equation} \lambda_f = \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \log \left| \prod_{i=0}^{N-1} f'(x_{i}) \right| = \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \sum_{i=0}^{N-1} \log |f'(x_i)| \label{eq:lyap} \end{equation} で定義される。例えば、テント写像のLyapunov指数は、ほとんど全ての初期値x_0で \begin{equation} \lambda_T= \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \sum_{i=0}^{N-1} \log |T'(x_i)| = \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \sum_{i=0}^{N-1} \log 2 =\log 2 \end{equation} となる。Lyapunov指数が正ならば、初期値の微小な差の指数関数的増大があると考えられる。
[注] Devaneyの定義では、カオスに初期値鋭敏性を要求している一方で、「指数関数的」な増大までは要求していない。文献によっては、「指数関数的」な増大まで含めて初期値鋭敏性と呼んでいることもある。この節は、Lyapunov指数を計算することにより、L_4の"狭義の初期値鋭敏性"を確認することを一つの目標としている。L_4が"広義の初期値鋭敏性"(定義5で定めた意味での初期値鋭敏性)を持っていることは、すでに示した通りである。[注終]
初期値をx_0=0.2に設定し、\eqref{eq:lyap}でN \to \inftyとする代わりにN=1000として、L_aのLyapunov指数の数値計算を行った。その結果を次ページの図4に示す。横軸がaであり、縦軸が\lambda_{L_a}である。図5は図4のうちa=3.5からa=4.0までの部分を拡大したものである。
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図4 Lyapunov指数の数値計算(1) |
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図5 Lyapunov指数の数値計算(2) |
図4に軌道図を重ねたものを図6に示す。軌道図(水色)は、各aに対し、\{x_n | n=1,2, \dots,150 \}をプロットすることにより作成した。Lyapunov指数が正であることと、軌道が複雑な形状になっていることの対応が見て取れる。
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図6 Lyapunov 指数と軌道図 |
さて、\muをXの上の測度として、「エルゴード定理」の仮定が成り立つならば、任意のg \in L^1_\muに対して \begin{equation} \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \sum_{i=0}^{N-1} g(x_i) = \int_X g d\mu \label{eq:ergo} \end{equation} がほとんど全ての初期値に対して成り立つことが知られている。このとき、Lyapunov指数は、 \log |f'(x)| \in L^1_\muならば \begin{equation} \lambda_f=\lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \sum_{i=0}^{N-1} \log |f'(x_i)|= \int_X \log |f'(x)| d\mu \label{eq:cal_lyap} \end{equation} と計算できることになる。以下では、L_4やTは「エルゴード定理」の仮定を満たし、かつ、Lyapunov指数は\eqref{eq:cal_lyap}に従って計算できると仮定する。ここで、 x_{n+1}=f(x_n)に対し \begin{equation} P_f(x)= \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N} \sum_{i=0}^{N-1} \delta (x-x_i) \end{equation} とおき、これをfの密度関数と呼ぶ。このとき、d\mu=P_f(x)dxとかける(*1)。テント写像では、命題1の証明で述べたようなT^nの作り方から、軌道は[0,1]上均等に分布すると考えられる(*2)。つまり、x \in Iに対しP_T(x)=1である。
h(x)=\sin^2 \frac{\pi}{2} xとする。また、y_{n+1}=L_4(y_n)とする。このとき、x_n=h^{-1}(y_n)とおくと、 \begin{equation} x_{n+1}=h^{-1}(y_{n+1})=(h^{-1} \circ L_4) (y_n) =(h^{-1} \circ L_4 \circ h) (x_n) =T(x_n) \end{equation} となる。つまり、y_nが密度分布P_{L_4}に従うとき、x_nは密度分布P_Tに従う。逆もまた同様である。そこで、P_{L_4}を求めるためには、y=h(x)としたときの密度関数P_T(x)の変換を考えればよい。よって、 \begin{equation} P_{L_4}(y)=P_{T}(h^{-1}(y)) \left| \frac{dh^{-1}}{dy}(y)\right|=\left| \frac{dh^{-1}}{dy}(y)\right|=\frac{1}{h'(h^{-1}(y))} \;(\ge 0) \end{equation} となる。これとL'(x)=4(1-2x)を用いて \begin{equation} \begin{split} \lambda_{L_4}&=\int_{I} \log |L'(y)| \frac{1}{h'(h^{-1}(y))}dy=\int_{0}^1 \log |L'(h(x))|dx \\ &=\int_{0}^1 \log \left( 4 \left|1-2\sin^2 \frac{\pi}{2} x \right| \right)dx \\ &=\log4+\int_{0}^1 \log |\cos \pi x|dx=2\log2+\frac{2}{\pi}\int_0^{\pi/2}\log (\cos x) dx \end{split} \label{eq:lyap_L4_cal} \end{equation} と計算を進めることができる。I=\int_0^{\pi/2}\log (\cos x) dxとおくと、\lambda_{L_4}=2\log2+\frac{2}{\pi}Iである。\cos x = \sin tとおくと、-\sin x dx=\cos t dtで、x \in (0,\pi/2)では\sin x=\sqrt{1-\cos^2 x}=\sqrt{1-\sin^2 t}=\cos tよりdx=-dtとなる。これよりI=\int_0^{\pi/2}\log (\sin t) dtを得る。よって \begin{equation} \begin{split} I & =\frac{1}{2} \left( \int_0^{\pi/2}\log (\cos x) dx + \int_0^{\pi/2}\log (\sin x) dx \right) \\ & = \frac{1}{2} \int_0^{\pi/2}\log (\cos x \sin x) dx = \frac{1}{2} \int_0^{\pi/2} \log \left( \frac{ \sin 2x}{2} \right) dx \\& = \frac{1}{2} \left( \int_0^{\pi/2} \log ({ \sin 2x} ) dx -\frac{\pi}{2}\log2 \right) \end{split} \end{equation} である。2x=uとおき、u=\pi/2に関して\log(\sin u)が対称であることを用いると、\int_0^{\pi/2} \log ({ \sin 2x} ) dx=\frac{1}{2} \int_0^{\pi} \log ({ \sin u} ) du=\int_0^{\pi/2} \log ({ \sin u} ) du=Iとなる。よって、I=\frac{1}{2} \left( I -\frac{\pi}{2}\log2 \right)すなわちI=-\frac{\pi}{2}\log2を得る。これを\eqref{eq:lyap_L4_cal}に代入することにより、L_4のLyapunov指数は \begin{equation} \lambda_{L_4}=\log2 =0.693\dots \end{equation} と求められる。これは図5での数値計算の結果と一致しており、これまでの議論でおいた仮定が妥当であったことを示唆している。
5. ロジスティック写像から複素力学系へ
ロジスティック写像のx_n \in \mathbb{R}を\in \mathbb{C}に拡張して考える。ただし、より知られている形に変数変換しておく。まず、z_{n} = -a(x_n -\frac{1}{2})すなわちa x_n=\frac{a}{2}-z_nとおく。
このとき、 \begin{equation} L_a(x)=a x (1-x) \label{eq:logi} \end{equation} は \begin{equation} \frac{a}{2}-z_{n+1} = (\frac{a}{2}-z_n)(\frac{a}{2}+z_n)=\frac{a^2}{4}-{z_n}^2 \end{equation} となる。さらに、c=-\frac{a^2}{4}+\frac{a}{2}とおくと、 z_{n+1}={z_n}^2+c と変形できる。特に、z_0=0のときを考え、cへの依存性を強調して \begin{equation} z_{n+1}(c)=z_n^2+c, \; z_0(c)=0 \end{equation} と書くことにする。c,z_n \in \mathbb{C}とする。
定義8 [マンデルブロー集合]
H_{\infty}=\{ c \in \mathbb{C} |\; |z_n(c)| \to \infty \; (n \to \infty)\}とする。マンデルブロー集合\mathbb{M}を\mathbb{M}=\mathbb{C}-H_{\infty}で定める。![]() |
図7 マンデルブロー集合 |
[補足] 自己相似的で、入り組んだ形状を持つこうした図形はフラクタルと呼ばれる。フラクタルはカオスと深い関連を持つとされる(参考文献[6])が、ここではフラクタル性までは踏み込まず、複素関数論の定理(定理3)を用いつつ\mathbb{M}の基本的な幾何学的性質をいくつか示し、複素関数論の知識が複素力学系を調べる上で役に立つことをみるに留める。[補足終]
命題3 [\mathbb{M}の有界性]
c \in \mathbb{C}に対し、|z_k(c)|>2を満たすk \in \mathbb{Z}_{\ge 0}が存在するならば、c \in H_{\infty}である。命題3より\mathbb{M} \subset \{c \in \mathbb{C}|\;|c|\le 2 \}であるから、\mathbb{M}は有界である。また、有界でない軌道が必ず|z_k(c)|\to \inftyとなることから、\mathbb{M}はz_n(c)の軌道が有界になるようなc全体として解釈できることもわかる。
命題4 [\mathbb{M}のコンパクト性]
\mathbb{M}はコンパクトである。定理3 [最大値の定理(複素解析)]
\mathbb{C}上の有界閉集合Dの上で定義された複素関数f: D \to \mathbb{C}が、Dの内部で正則であり、さらに定数関数でないとする。このとき、|f(z)|は\partial D上で最大値をとる。定義9 [連結性]
(X, \mathcal{O}_X)を位相空間とする。A \subset Xが連結であるとは、次の条件を満たすU_1,U_2\in \mathcal{O}_Xが存在しないことをいう。 \begin{equation} U_1 \cap A \neq \emptyset, \;U_2 \cap A \neq \emptyset, \;U_1 \cup U_2 \supset A, \;U_1 \cap U_2 \cap A=\emptyset \end{equation} 点x \in Aを含むAの連結な部分集合の中で最大のものを、Aのxを含む連結成分という。命題5 [H_{\infty}の連結性]
H_{\infty}は連結である。従って、H_{\infty}の任意の連結成分V_\lambda \;(\lambda \in \Lambda)は、A=\{c \in \mathbb{C}| \;|c|>2\} (\subset H_{\infty})と共通部分を持つ。よって、V_\lambdaらはAを介して道でつなぐことができ、\bigcup_{\lambda \in \Lambda} V_\lambda \:(\supset A)は弧状連結である。ゆえにH_{\infty}は単一の連結成分から成る。すなわちH_{\infty}は連結。 [証明終]
命題5より、H_{\infty}の部分集合で\mathbb{M}に囲まれているものは存在しないことがわかる。
参考文献
[1] 井上純一(2011) 「2011年度 カオス・フラクタル 講義ノート」.https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/46977
[2] Steven H. Strogatz(2015) 「ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス 」(田中久陽, 中尾裕也, 千葉逸人訳) 丸善出版.
[3] 神保秀一, 本田尚文(2010)「テキスト理系の数学6 位相空間論」数学書房.
[4] Morris W. Hirsch, Stephen Smale, Robert L. Devaney(2017) 「力学系入門 —微分方程式からカオスまで— 原著第3版」(桐木紳ほか訳) 共立出版.
[5] J. Banks, J. Brooks, G. Cairns, G. Davis and P. Stacey(1992). On Devaney's Definition of Chaos. The American Mathematical Monthly. Vol. 99, No. 4, pp. 332-334.
[6] 山口昌哉(2010) 「カオスとフラクタル」筑摩書房.
[7] 川平友規(2012)「マンデルブロー集合 ——2次関数の複素力学系入門——」.
http://www.math.titech.ac.jp/~kawahira/courses/mandel.pdf
(*1) ここの理解は未だ曖昧である。
(*2) そんな気がするが......本当にそれでよいのか?
(*3) これには、紙幅が足りなかった、よくわからなかった、時間がなかった、力学系というより複素解析の定理であるため省いてもまあ許されるだろうと思った、という四つの理由がある。
(*4) あまりにもひどい話だが、私はこの証明を理解していない。不勉強ゆえ連結という概念の扱いがわからないことに原因がある。ベースは参考文献[7]だが、これを読んでもよくわからかった。というのも、そこでは連結性の定義(定義9)をあらわに用いているようには見えないのだ。そこで川平先生にメールを送ってヒントをもらったのだが、依然よくわからない。命題5は第5章のメインイベントであり、削る訳にもいかない。第5章を根本的に書き換えるほどの時間的余裕もない。どうしようもないので、「これらは定理3に矛盾する。」以降の論理が飛び飛びのまま、適当にそれっぽいことを書いた欄になってしまった。誰か位相空間に明るい方、どうか教えていただけないだろうか。
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