2019年9月27日金曜日

続・私の院試体験(7)

・2018年8月~2018年9月中旬
私は北大と京大の試験を受け、その両方において第一志望の研究室に合格した(*1)。私は京大に進学することに決め、春からは理学研究科化学専攻の研究室に所属することになった。QM/MM法(*2)(*3)で生体内化学反応の機構を理論的に解明することを目指している研究室であった。

・2018年9月下旬~2018年10月上旬
私は院試に合格した旨を卒業研究の指導教員のK先生に報告し、卒研の方針について話し合った。大学院から取り組む予定の分子動力学シミュレーションはK先生の専門分野ではなかったが、K先生は自身の専門と分子動力学シミュレーションを接続するような分野を一緒に学んでいこうと言ってくれた。そうしていくつか提案してもらった候補の中から、私は自分の卒研のテーマとして液体論(*4)を選んだ(*5)。かくして、液体論の教科書 "Theory of Simple Liquids - with Application to Soft Matter 4th Edition" (Hansen & McDonald, 2013)を読み進め、勉強した内容を週に一回K先生の前で発表する、というスタイルで卒研を進めていくことになった。

・2018年10月中旬~2018年12月上旬
もうすぐ東京を離れることになったため、引っ越しまでに東京らしいことでもしておこうと思い、浅草でどぜう鍋を食べたり東京証券取引所に行ったりした。特に、東京証券取引所に行った旨をblogの記事に書いた(*6)ところ、友人「おく」が関心を示し、次は一緒に行こうという話になった。そうして、おくと一緒に国会や最高裁を訪れた(*7)。
卒研の内容である液体論は、K先生というよりA先生の方の専門分野だった。そこで、K先生と議論しても解決できなかった疑問点はA先生に相談しながら教科書を読み進めていくことにした。A先生の説明は明快で分かりやすく、A先生と議論するのは楽しかった。また、4年生のAセメスターではA先生の授業を受けていたが、これもまた刺激的で面白いものだった。A先生の授業を受けていると、失われかけていた物理を楽しむ気持ちが戻ってくるような感じがした。

・2018年12月14日
いつものごとく学生控え室に行ってみると、学科の友人T君とおくが現れた。T君は言った。「ちょっと【如才】君にも聞いてみよう。何の話かというと、結婚問題ですよ」
2人は、出会いがない中でどうやって結婚しようか、という問題を議論していたようだった。T君によれば、同級生の中には結婚をしたいという人もいれば、まだ何も考えていないという人もおり、結婚に対する態度は様々だということだった。T君は私に尋ねた。「それで、【如才】君はどうなの。結婚したいの?」
私「それは......具体的な一人を想定して、そうですね」
T君「具体的な一人を想定して、そう......。それはどういうこと。アニメキャラとかアイドルとかと結婚したいって言ったら◯すぞ」
私「いや、ある程度交流のある、生身の人......です」
私は、自分に好きな人がいることを自白した。そこから、なぜ私が片想いを続けているのかという話になり、更にその背後にある希死念慮の話になった。T君は、「なんか結婚どころじゃなくなってきたぞ」と言って、何やら黒板に図を書きながら自らの死生観を語り始めた。それは、私が理解した限りでは、「自殺すること前提で生きて、生きる上で活力になるものを自ら捨てていっていてはいざ自殺しないとなったときに後悔するだろうから、自殺しないことを前提にして人生を考えるべきだ」(*8)という内容だった。そして、この言葉が私の初恋における一つのターニングポイントになったのであった。(続く)

(*1)ref.「私の院試体験」
(*2)系を量子力学(QM: Quantum Mechanics)で扱う部分と古典的な分子力学(MM: Molecular Mechanics)で扱う部分とに分けた上で、分子の時間発展の様子を計算する手法。反応過程を議論するには量子効果を取り込む必要が出てくるが、全てを量子力学で計算すると膨大な計算コストがかかってしまう。QM/MM法は全てを量子力学で扱うよりも計算効率が良く、溶液中のタンパク質などの大規模な系のシミュレーションを可能にした。私は、量子力学の知識を要するこのQM/MM法に関する研究に携わることで、物理中心の教育を受けてきた強みを活かしつつ生命科学の発展に貢献することができるのではないかと考えた。
(*3)私は、4年のSセメスターでは「レーザーを照射された窒素分子の電子の波動関数の時間発展の計算」をテーマにしていた。これは全てを量子力学で扱う化学計算である。しかし、窒素分子は小さすぎて、生命現象という観点からはあまり面白いものではない。生物屋にとっては、もっと大規模な分子について計算できた方が嬉しいのだ。このように、QM/MM法の研究室にしたことには4Sでの研究室選択の結果が関わっている。
(*4)液体の構造を扱う統計力学の分野。その応用として、量子化学計算と組み合わせたRISM-SCF法(Ten-no, Hirata & Kato, 1994)がよく知られている。このRISM-SCF法は、溶液中の化学反応を計算する上で重要なツールとなっている。
(*5)これは『ゆゆ式 1』(三上小又, 2009. p. 71)の影響であった。ref.「卒業研究」
(*6)ref.「日記: 東京証券取引所と水再生センターの見学」
(*7)ref.「12/11 午後」
(*8)私のblog記事「初恋(1)」より引用。最終閲覧日2019/9/27。

[参考文献]
  • 三上小又, (2009). 「ゆゆ式 1」. 芳文社, 東京.
  • Hansen JP. & McDonald l. R., (2013). Theory of Simple Liquids - with Application to Soft Matter 4th Edition. Academic Press, Cambridge.
  • Ten-no S., Hirata F. & Kato S., (1994). Reference interaction site model self‐consistent field study for solvation effect on carbonyl compounds in aqueous solution. Chem. Phys. Lett., 100. pp. 7443-7353.

目次へ

0 件のコメント: