2018年12月16日日曜日

12/11 午後



というわけで、友人「おく」(以下、O)と「例の覚醒剤のやつ」に行くことになった。

話は数週間前に遡る。「日記: 東京証券取引所と水再生センターの見学」をアップロードしたところ、それを読んだOと、卒業する前に東京の色々なところに行っておきたいという話になった。というのも、二人とも卒業したら東京を離れる予定なのである。そうして2人の共通の行きたい場所として挙がったのが最高裁判所だった。最高裁判所のウェブサイトにアクセスしてみると、これから行われる裁判の一覧が掲載されていた。その中で一際目を引いたのが覚醒剤取締法違反等の事件だったのだ。是非これを見たいと私は言ったが、Oは、この事件は「判決・弁論」の項目が「判決」になっていることを指摘した上で、すぐに裁判が終わって盛り上がらないのではないか、との懸念を表明した。果たして「判決」の裁判はすぐに終わるものなのだろうか。色々調べてみたがよく分からず、その日は有耶無耶になったまま会話が終わった。
そうこうしているうちに「例の覚醒剤のやつ」の前日になった。私は、この日は午前中に浜離宮などを散策するため(*1)に元々東京メトロの1日切符を購入する予定であり、さほど盛り上がらなくてもとりあえず傍聴に行ってみようと考えていた。問題はOがどうするかだ。そこで尋ねてみたのが上記の会話である。「いくいく」と二つ返事でOKしてくれたので、2人で傍聴することになった。

さて、冒頭のやりとりにあるように、私はエスを1パケ持って行った(写真)。 手荷物検査に引っかかれば面白いだろうと思ったからである。
エス
エスとは、sugarを指す隠語である。ちょうどいいパケ(小袋)を探すのには難儀し、結局目薬の袋で代用することにした。このエスを鞄に忍ばせて、私は家を出発した。
当日になって、ついでに国会も一緒に見学することになった。13時からの見学コースに参加するため、国会で待ち合わせをした。寒いため国会議事堂前駅から出ずに待っていたところ、Oから「既に外に出て国会議事堂の前にいる」という旨の連絡が入った。議事堂の前ということは正門か。慌てて駅から正門側へ向かった。国会議事堂前駅の出口は議事堂の裏側にある。正門はかなり遠い。走って正門の側に行ったがそこにOの姿はなかった。警備員さんに聞くと見学コースの入り口は議事堂の裏側にあるとのことだった。しまった、Oはそちらにいるのか。私は再び走って裏側へ向かった。すると、Oから「すまん、表にいると思ったていたが僕がいたのは裏だった そっち(=正門側)いく」と連絡が来た。ロクに下調べしていないため、2人とも集合場所を知らないのである。2人が同じ方向に議事堂をぐるぐる回っているのならば、出会えるはずがない。そうこうしているうちに私は参議院見学コースの集合場所へとたどり着いた。寒いためそそくさと中に入って、用紙に必要事項を記入しながら待つことにする。そうこうしていると見学開始時刻になり、あれよあれよといううちに金属探知機に通されて修学旅行軍団の中に放り込まれてしまった。Oは来ていない。参議院の見学が始まった。
まずは議場に案内された。へえ、これが議場か。......特に何も思わなかった。スマホをつけると、Oから衆議院を見学するとの連絡が来ていた。相補的関係である。委員室が並ぶ廊下を通って、皇族室を見たあと、板垣退助らの像がある広間に行く。二階からしか見れなかったので、像はよく見えなかった。あとは47都道府県の木が並ぶ庭に出て解散となった。計1時間ほどかかったが、修学旅行軍団は人数が多く整列に時間がかかるため、思ったより密度の薄い見学であった。
外に出てしばらくするとOと合流できた。エスを持ってきたことを告げると、Oは鉄板を持って来ればよかったと言い出した。どうやら金属探知機に引っ掛かるために鉄板を買いたいらしい。東京証券取引所には手荷物検査があったことを伝えると、良いことを聞いたと喜んでいた。引っ掛かるためにわざわざものを買うなんて、変な人もいるものである(私のエスはもともと家にあったものであり、Oのそれとは質的に違う)。
最高裁の門の前に着くと、門の前に守衛さんがいた。裁判までまだ時間があるため、(門の)中には入れるが(建物の)中には入れないらしい。どこまで入れるのかいまいち要領を得なかったので、「ということは、入っても寒いということか」と尋ねたところ、そうだと言われた。私は寒いのが苦手であるから、他の場所で時間を潰すことにした。後で、それは寒い中ずっと立っている守衛さんに聞くことではないだろうとOに笑われた。
Oはお腹が空いているらしく、店を探すことになった。カフェがあったが、Oはおしゃれなカフェには入れないという。Oが都道府県会館という建物に入っていくので付いて行ってみたが、半端な時間であったためかどこも空いていない。諦めてコンビニに寄って帰る頃には時間もギリギリになっていた。
建物に入ると、まずは手荷物検査......と思いきや、筆記用具と貴重品以外は全てロッカーに放り込めと告げられる。仕方なく、エスの入ったカバンをロッカーに預けた。わざわざパケを探してきた私の手間は何だったのか。金属探知機を通ると、小法廷に案内された。椅子はなかなか座り心地が良いが、裁判の途中でいきなり笑い出すわけにはいかないので緊張してあまりリラックスできない。前の席には、学生らしき人たちが数人座っていて、「法学概論 レポート」と書かれた紙とシャーペンを持っている。課題のために傍聴に来ているようである。
しばらくすると裁判官たちが入廷した。いよいよ裁判の始まりである。私は裁判といえば逆転裁判の裁判(*2)しか知らないので、裁判官が複数いるのを見て、おお、本当の裁判という感じがする(*3)なあと感動した。裁判官が着席すると、裁判長が判決文を読み上げ始めた。ほうほうと聞いていたが、一体どんな事件だったのかも知らずに来てしまったため、判決文が何を言っているのかロクに理解できない。どうやら二審には事実誤認があり、これを支持するのは「著しく正義に反する」ため破棄して、一審判決を支持するという内容のようだが、 それすらもこの理解で合っているのか怪しいものだ。よく分からないなあと思って聞いていると、あっという間に裁判が終わって裁判官たちが退廷して行った。裁判長以外は顔見せのために来てくれたらしい。わざわざありがとう。
しかし、予想はしていたが拍子抜けだ。前の人たちに意識を向けると、あっという間に裁判が終わってしまったせいか笑い声が聞こえる。レポートを書きに来てこれならそれは笑ってしまうだろう。この人たちも我々と同じ下調べ不足の同類らしいと感じて、つい私も笑ってしまった。道すがら「勝訴」「不当判決」と書かれた紙を持ってくればよかったなという話をしていたが、これではどっちを出せばいいのかも不明である。
最高裁を出たあとは、一緒に国会図書館に行った。しかし、国会図書館は広く、入ってしばらくしたらOがどこで何をやっているのか全く分からなくなってしまった。私はTwitterのダイレクトメッセージでOが帰っていたのを知った。私も帰ろうと思ったとき、外では雨が降り始めていた。

全てにおいて、下準備不足が露呈したひどい1日であった。そして、こうして下準備は大切であるという教訓が得られたわけだが、私の性格上それが活かされる日は一生来ないであろうということも予感されるのであった。

[追記] 関連記事:「12月11日」(Voices Inside My Head) ......O側の視点から書かれている。

(*1)関連記事: 「12/11 午前」 (The Shape of K)
(*2)裁判官がサイバンチョしかいない。
(*3)ただし、簡易裁判所では一つの事件を一人の判事が審理する。

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