2019年10月3日木曜日

続・私の院試体験(13)

・2019年7月下旬
7月20日、筆記試験当日である。院試も3回目ともなると慣れたものだ。昼休みになって受験生たちがぞろぞろと教室を出て行く中、「試験会場で髭を剃っていたら白い目で見られた」と言って後でネタにしようと思い、一人無表情のままブイイイイインと電動カミソリで髭を剃った。だが、私の目論見に反して誰も目を合わせてはくれなかった。悲しかった。
肝心の試験であるが、熱力学が難しかった以外は特に苦労しなかった。そして、手応え通りにちゃんと一次試験はパスしていた。後は面接だけである。私は、もう受かったも同然だと思い、借りている部屋の管理会社に解約通知書を送り付けた。

・2019年8月上旬
8月1日、面接の日だ。朝5時に起きて新幹線に乗り、新幹線の中で仮眠をとった。面接には間に合った。事前に志望動機も取り組む研究テーマもA先生と十分に話し合っていたので、ほとんど形式だけの面接だった。
そうして無事A研に合格した。

・2019年8月中旬~2019年8月下旬
8月の中旬は、喘息の発作が出て思うように活動できなかった。部屋探しは9月に入ってから行うことにした。
8月末、「院試お疲れ様会をしよう」と言って、院試を受けたばかりの高校の後輩を京都まで呼び付けた(*1)。私は言った。
「院試お疲れ様。どう、手応えのほどは?」
「まあ、合格でしょう」
「さすが優秀やね。ところで、院試といえば、俺もこの前院試を受けてきたんよ。これを見てくれ」
私は東大の合格通知書を撮った写真を差し出した。
「え、京大辞めるんですか?」
「そう。やから君が京都の俺の家に来るのはこれで最後」
「!?」
「おー、いい反応やな。普段の言動が悪いんか、これ言ってもみんなあんまり驚いてくれんことが多くて(*2)。驚いてくれてよかった。サプライズ成功やな!」
「そうですね。普段の言動、悪いですよ」

・2019年9月
東京に出て、住む部屋を決めた。そこからは慌ただしい日々が過ぎた。引っ越し業者を頼み、賃貸の契約書類を書き、部屋の片付けをして、京都で住んでいた部屋を退居した。
9月20日、私は東京大学総合文化研究科に入学した。私は、京大を退学した旨をTwitterに投稿した後、時間をあけてから東京大学に入学した旨を投稿した(*3)。なかなか反響があったので良かった。
入学と同日に入居した。入学手続きと引っ越しの諸々が重なって大変だった。

・2019年10月3日
今、私はパソコンに向かって文章をタイプしている。現在の居場所は東京だ。私は再び東大生になった。まだ新学期は始まったばかりで今後どうなるかは分からないが、早速新しい友達もできたし、京大時代よりは楽しめそうな予感がする。前は成果を出すことを重視するあまり大きく空回りしてしまったが、今度は物理学の面白さを味わうことを第一の目標として、自分が心から研究活動を楽しめるよう精一杯頑張っていこうと思う。
半年間京都にいたのは、お金という意味では無駄だったかもしれない。私が浪費したのはつまるところ親のお金であり、両親には多大な迷惑と心配をかけたと思う。ただ、時間という意味では決して無駄ではなかったはずだ。A研に行こうと思えたのは、卒研で液体論をやっていたからという側面が大きい。そして、院で京大の化学専攻に行くことになっていなければ、そもそも卒研で液体論をやろうという話にはならなかっただろう。私がA研に行くためには、こういう回り道のプロセスを踏むことが必要であったのだ。
また、院で京大に行ったことは、恋愛においても重要な意味を持っていた。まず、東京を楽しもうと思って火力発電所に行ったことが、「彼女」をデートに誘うきっかけ、ひいては彼女に告白するためのきっかけになった。更に、京都に住んだことによって、彼女と同じ関西圏にいることができた。これも彼女にアプローチする上で有利であった。結局、院で京大に行っていなければ、私は告白によって自分の気持ちに区切りをつけることもできていなかっただろう。振られてしまったわけであるが、それも価値ある経験だった。副産物として、「初恋」という名作をこの世に生み出すこともできた。失恋の一件に関しては、反省すべきところは反省し、今後の自分の糧としていきたいところだ。
今回、東大を受けて合格したことにより、憂鬱と倦怠の泥沼からどうにか抜け出すことができた。しかし、これでめでたしめでたしかというとそうではない。私の中には、"呪縛"も、希死念慮も、解消しきれないまま残っている。ついでに言えば、恋人はいないし全くモテない。研究者としての業績もない。最近どうも便秘気味だ。加えて、音痴で運動音痴で方向音痴だ。本当に課題山積である。
とはいえ、自分の人生をより良いものにしていくべく、私はこれからも全力を尽くすつもりである。応援していただければ幸いだ。

以上が私の院試の顛末である。(「続・私の院試体験」終わり)

(*1)ref.「タチが悪い」
(*2)例えば、おくは全然驚いてくれなかった。
(*3)ref.「退学しました」 「4コマ漫画です。」

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