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またしてもクロスワードを作った。ネタバレになるが、その制作について少し話そう。
今回のクロスワードのテーマは、巨大なものを作ることである。とはいえ単に巨大にしただけではなく、自分なりの美学を追求した。まず、次のような条件を自らに課した。
(1)黒マスを縦または横に連続させない。
(2)どの白マスも、縦または横に隣接した白マスを2つ以上持つようにする。
(3)四隅と、四隅に縦横斜めで隣接するマスには黒マスを配置しない。
(4)黒マスを斜めに3つ以上連続させない。
(1)は当たり前である。また、白マスの行き止まりができては美しくない。そこで(2)を設定した。
四隅に黒マスがあるということは、そこが欠けてもパズルとして成り立つということだ。つまり、四隅に黒マスがあるパズルは厳密には長方形のパズルとはいえない。それは美しくない。更に、四隅の縦または横に隣接したマスが黒マスであると、隅に行き止まりができる。これも良くない。四隅に斜めに隣接したマスが黒マスであると、縦横2つの鍵と絡まないマスが一気に2つできてしまう。以上の観点から(3)を設定した。
クロスワードの面白いところは色々あるが、様々な言葉が複雑に絡み合う様子が面白いというのは1つ挙げられるだろう。マス目が連続する黒マスで分断されればされるほど、この面白さは失われていく。そこで、黒マスが斜めに連続できる個数を今回は「2」までとした。これが(4)である。
以上が黒マスの配置についてだが、言葉の選定では次のようなことに気をつけた。
(5)自分が知らない言葉は入れない。
(6)高校程度の専門用語を多く入れる。
漢検1級のようにほとんどの人が知らないような言葉を入れれば簡単に難易度を上げることができるが、それではフェアではないだろう。答えが分かったとき、「ああー、そういえばそんなの聞いたことがある」だとか、「へえ、勉強になった」のように思ってほしい。そこで(5)(6)である。
とはいえ、私はクイズ王ではないので、例えば男子体操の種目を聞かれて「「床運動」「鞍馬」「跳馬」「平行棒」「鉄棒」「吊り輪」」と即答できるわけではない。「知らない言葉を入れない」とはそういうこと(=どのカギも自分が即答できるように作ること)ではなく、先ほどの例でいえば「男子体操の種目の中に「吊り輪」があることを知っている」という意味である。
クロスワードの制作は基本的に試行錯誤である。適当に入れたい言葉を入れてみて、そこから枝を生やすように縦や横に単語をつなげていく。どういうカギにするかを大雑把に考えながら埋めていくため、カギが思いつかない単語は選ばない。
文字と文字がクロスするところが難しい。まず片方に関してカギを作れそうな単語をリストアップする。そして、そのリストから単語を1つ選んで、もう一方と整合するような単語があるか確かめる。なければリストの次の単語に進む。こうして整合する単語のペアが見つかればその部分はOKだ。見つからなければ、「適当に入れたい言葉を入れてみて」のところから言葉を変えてやり直す。こうして、少し作ってはやり直し、少し作ってはやり直し、というのをマス目全部が埋まるまで繰り返していく。
クロスワード第一稿 |
・「留守」が被っているため、タテ55を「イス」に変更した。
・「こち亀」があるが、特定の商品などに関する言葉はできれば避けたい。そこでタテ29を「婚活」にし、それに伴いヨコ40を「門松」に変更した。「カノッサの屈辱」を出題できなくなるのは惜しい(*1)ためここは迷ったが、変更した方が美しいと判断した。
・崎陽軒の「シウマイ」も同じである。ヨコ13は「知り合い」に変えた。
・英語で尻尾を意味する「テイル」だが、「ヒストンテール」「テールランプ」のように「テール」の表記の方が普及しているようであるため「テイル」はやめた。例外は少年マガジンの「フェアリーテイル」くらいである。並び替え問題の解答にしたかった「鶏口となるも牛後となるなかれ」のための「ナ」が足りなかったため、ヨコ16を「ナイル」に、それに伴ってタテ10を「合鍵」へと変更した。
カギは自らの連想力を最大限まで使って考えた。まず、なんでもない言葉であっても極力アカデミックな内容に結び付けて出題するようにした。例えば、「ハスウ」は普通「端数」であるが、物理の「波数」として出題した。また、「オクレ」は交流回路における位相の遅れに結び付けて出題した。
また、ところどころに「死」の雰囲気を含ませて、「いつか必ず人は死ぬ」というメッセージを暗示させた。特に、年賀状のクロスワードを解いていて「存在と時間」が突然出てきたら笑えるなと思ったため、「存在と時間」は意図的に入れた。これと「ヨーロッパの火薬庫」に関しては、カギでの解説もやたら長い。
ただ、「オウム真理教」があることに関しては偶然である。ここに「オウム真理教」があるとピッタリはまる、ということを発見したときは自分でも驚いた。起こした事件の凄惨さを思うと入れるか入れないか迷ったが、「オウム真理教」を使う以上に黒マスを減らせる配置は見つからず、結局入れることにした。
本当は、時事ネタとして「ナゴルノ・カラバフ」も入れたかった。だが、クロスワードでの扱いが難しい文字が大量に含まれていて、これを入れるとどうしてもうまくいかなかったため断念した、という経緯がある。ナ、ゴ、ラ、バ、フを含む単語は少なく、ノやルも扱いやすいとは言い難い。「ナゴルノ・カラバフ」に関してクロスワード上扱いやすいのはカくらいなのだ。
今回のクロスワードはそこそこ美しく仕上がったと思うが、「ポン」や「真砂」はやや美しさに欠ける出題だったかもしれない。麻雀の役は学術用語でもない割に知っている人が限られる。また、「真砂」はブラタモリを毎週見ていたら分かるのだが、高校では習わないし専門的すぎる。また、全体が大きい割に白マスの3×3ブロックの個数もやや少ない。これらの点で、美しさという面で2020クロスワード第二問の壁は超えられなかったように思う。
書きたかった裏話はこんなところである。あの巨大クロスワードを解いた人がいたら、よくぞ解いたものだと称賛したい。解いたついでに、作品の裏に隠された私の美学も意識して味わってもらえたら幸いである。
(*1)cf.「「きのこの山」は山であってきのこでない」
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