2020年1月15日水曜日

吉野家 つながる食堂

注意: この記事には、映画「君の名は。」やおとぎ話「浦島太郎」のネタバレが含まれている。

今年の1月1日、友人「おく」からメッセージが届いた。「あけおめ。ところでこんなものを再発見したからやりたい。」
そこには、オモコロというWebメディアの「【吉野家】東京↔大阪間でバーチャル会食ができる唯一の店に行ってきた!」という記事へのリンクが貼ってあった。どうやら、吉野家には東京の店と大阪の店とでテレビ電話をしながら食事できるシステムがあるらしい。その名も「つながる食堂」である。詳細はリンク先を見てもらうこととして、ともかく、今回はそれを東京に住んでいる私と大阪に住んでいるおくとで試してみようという話であった。ちなみにショバ代が牛丼代に+1000円でかかるそうだ。
吉野家はどうしてこれに需要があると思ったのだろうか。ハーフミラーを採用した機構のおかげで目線が会うというウリはあるものの、今の時代格段に安くて手軽なLINE通話が既にある。一体何がしたいのか、全くわけが分からない。そういうわけで、私は二つ返事で承諾した。

約束の当日、家から自転車を漕いで行って(*)、19時ちょうどに吉野家恵比寿駅前店に到着した。カウンターで予約画面を見せると、「つながる食堂のお客様がいらっしゃいました」との声とともに店内奥の別室へと案内された。吉野家といえど別室に案内されるというのは気分が良いものである。メニューを見て、ねぎ玉牛丼を注文することにした。
しばらくすると牛丼が出て来た。ところが、機械の調子が悪いらしく画面は真っ暗のまま動かない。
「これいつつながるんですか」
「申し訳ありません。大阪店の方で準備がうまくいっていないようでして」
そういうと店員さんが何やら電話をし始めた。だが一向に繋がらない。我々は三ヶ月ぶりくらいの客だというから、店員側も使い方が分からないのだろう。そうこうして20分くらい経った。
「これでは牛丼が冷めてしまいますよ」
「すみません。お作り直ししますので」
そう言うと、店員さんは電話をかけながら慌ただしそうに部屋から出て行ってしまった。しばらくすると別の店員さんが来た。お詫びとして、何か自由に頼んでいいのだという。
「そう言われても、牛丼もうあるしなあ......。じゃあ、しらすおろし1つ。あ、牛丼は作り直さなくていいです。食べ物を無駄にするのは僕のポリシーに反するので」
そう言うと、店員さんがしらすおろしを持って来てくれた。これでカルシウムやビタミンCも補給できるだろう。
19時半頃、ようやくテレビ電話が繋がった。
「いただきます」
そう言って二人で牛丼を食べた。おくは言った。
「これは......流行らんわ」
全くもってその通りである。実際に行って試してみるまでもなく分かっていたことだが、こんなの流行るわけがない。

しばらく喋って、もう話すこともなくなってしまった。私は言った。
「これどうしよう。どうすればいいと思う?」
「うーん。てか店員さんを呼び出そうとしても来やへん」
「電池切れかな?」
「この部屋外界と隔絶されているからな......。これもそういうこと」
「時空が歪んでいる!?瀧くんが電話をかけたけど繋がらなかった......的な!」
「ちょっと外見てくるか」
「あるいは外では百年くらい経っていて一瞬でおじいちゃんになっちゃうやつ」
「店員さんいたわ」
「よかった。つながっている食堂で......」
そう言っておくと別れた。店の責任者らしき人に不手際を謝られ、ショバ代は結局タダにしてもらえた。ちなみにおくは来週用事で東京に来るらしく、また一週間後に会うことになった。

(*)おくは阪大方面からモノレールと地下鉄を乗り継いで店までやって来たそうだ。

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